2019年3月27日水曜日

第355回 羽田空港で骨折り損


昨日の夜の話だ。

フィンランドから、友人のマルクス・エマ夫妻がくるというので、サプライズでもしてやろうと思って、到着予定として知らされていた時間に羽田空港に行って、待ち構えていた。あらかたやることを終わらせてから、夜の9時半に電車に乗り、全然人のいない京急線で向かう。到着したのは10時少しすぎ。彼らが着く、と言っていたのは10:40。

その時間には二本の中東系航空便があった。
1本目は10:30、2本目は10:45に到着、とある。

もし1本目だとしたら、きっと彼は10:30に到着だよ、と言うはずだろう。
なので2本目に違いない。
そう見当をつけた。

何より、1本目が"Delay"と出ていて、到着が23:56だと言うのだ。
僕は、推理をした、と言うより、自分にもバレないように、その願望を心の前面に押し出して、二人が乗っているのは10:45分の便だ、と決めつけた。

その便が実際に到着したのは、10:55。
よしよし、と思って、出口を見つめる。

初めは、その3本くらい前の便のマレーシアからの便の人たちが目立っており、待っている人の中にも、マレーシアの話題が出ているから…などと、周囲から漂うヒントをあてにしながら、いまかいまかと待ち構える。
エミレーツ航空の添乗員さんたちが出てきて、だんだん、中東系の顔が増えてくる。
併せて、ヨーロッパからきたであろう人たちの顔も増えてくる。
中東の航空会社は、安いからヨーロッパの往復にはもってこいなのだ。
いいぞ、いいぞ、とだんだん胸が高鳴ってくる。
半透明の壁に映る人影がそれらしきカップルだと、期待を込めて視線で追うのだが、どれもマルクスたちとは違う。

20組ほどのヨーロッパの旅行者を見送っただろうか。
待てども待てども、二人は来ない。

この辺りで僕はもう悪い予感を拭い去れない。

あ、これ、2本目かもしれない。

しかし僕の終電は12:23なので、2本目が出てくるのを待っていたら間に合わない。

うーむ、と腕組みしてしまったが、仕方がない。

結局12:15になっても二人は現れなかったので、諦めて帰ることにした。

※ ※ ※

さて、この体験はしかし、僕にとってどこか「いい」体験であった。
と言うに、まずやはり僕は飛行場が好きだから、ということと、出口で暖かく迎えられテいる帰国者、旅人を見ているうちに、なんだか、こちらまでいい気分になってしまったから、ということがある。なんだか僕も、海外から帰ってきて、誰かに思い切り笑顔で抱きしめられたいなぁ、とか思ってしまった。

そして、携帯電話でいつでも世界の誰とも連絡が取れて、「確実に会う」ことが簡単なこの時代に、「会えるか会えないかよくわからない」状況に身を置くのは、随分と稀有な経験だよな、とも思ったのだ。昔の待ち合わせってこういうところがあったんだろうな、と思う。
自分の知っている人が眼前に現れるのをいまかいまかと待っている間の心持ちというのは、それだけで割に充実した気持ちだったりする。少なくともその待ちわびている間は、その人たちのことしか考えていない。で、そういう、「自分の想像の中に人を思い起こして触れ合っている時間」というのは、これは、目には見えないけれど、少なくとも大事な人生の滋味の一つなんだなぁ、と思えたのだった。

そんなわけで、目的は達成できなかったのだけど、思いがけず別の発見があったので、帰り道もなんだかふふふ、と上機嫌で家路に着いたのである。

(そしてこれを書いている最中にマルクスからぽーん、とメッセージが来て、「ホテルに着いたよ!」だそうである。やっぱり、2本目で着いて、なんの問題もなくくつろいでいるのだな。やれやれ。まぁ、いいや。)

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